仁左さまにお会いできるのは去年12月の南座以来である。
その後2月の松竹座、5月の南座と出かけたがどちらも仁左さま抜き。
おサルにしても吉にしても不満はないがでもやっぱり仁左さまが一番。

久しぶりの松竹座、今回は一人で行った。
美也子たんはおなかが大きいし、Yことカバコは東京に研修に行っちゃった。
でもまぁ一人もまたヨシ。
出勤する夫にナンバまで送ってもらって、松竹座に入る。
天気は小雨が降っていたがすぐに劇場に入れたので濡れなかった。
番附を買って売店を覗くとなんとなんとなんと、仁左さまの襲名グッズを売っているではあーりませんか!
噂のTシャツと、写真立てである。美也子たんも購入したというTシャツ、私も欲しかった!迷わず購入。
それから、会社で先日、私のリクエストで北海道のペパーミントクリスタルを買ってきて下さったおじ様に、お礼を何かしようと思っていたので、扇子もひとつ。これは仁左さまのグッズではない。

今回は四代目尾上松緑の襲名披露である。彼に期待してはならないことは以前おやびんからちょっと聞いていたし、誰が出ようと今回の目的はなんといっても仁左さまなので、うきうきそわそわ、かぶりつきの席につく。1列目10番の席。そういえば私、この席に座ることが多い。大抵ここか、もひとつ右か左くらいである。ほんまにええ席。
両隣は静かなおばさま達。安心、安心。

買ったTシャツを綺麗に丸めて、かばんに入れて、オペラグラスを取り出し、番附を膝に広げて準備OK。幕が上がる。

一幕目は片岡我當の「矢の根」。
我當は仁左さまのおにいちゃんである。この人が仁左さまになるべきところを、快く、弟に譲ったから、末弟の孝夫さまが仁左さまになれたのである。我當、えらいなぁ。すごいなぁ。できた人だなぁ。
敵討ちに燃える若侍のハナシである。いやぁそれにしても我當の顔、まん丸なこと!!ほんっとうにまん丸である。これでもか、ちゅうくらいまん丸である。これはもうアンパンマンとしか呼びようがない。アンパンマン我當は、ころころと丸い体に勇ましいいでたち、どんなにすごんでもアンパンマンだから笑えて仕方ない。アンパンマンが金太郎になったみたいでおかしくてたまらない。我當と何度も目があった。
進之助なども出るが、殆ど我當だけみたいなハナシだった。亀蔵が出てきて馬を奪われ、最後は大根片手に我當が花道を去っていくシーンなど、もう、笑えて笑えて仕方なかった。でもクサくない。不細工じゃない。そういう笑える話なんだと、思う。馬は大人二人でかぶりものをして頑張っていたが、我當が乗り込むと後ろ足の人の足がぷるぷると震えていた。さぞかし重たいんだろう。うぷぷぷぷ。
15分の休憩。
舞台写真の販売があると聞いて慌てて2階に下りる。あったあったあったあった。仁左さま、水色のお召し&袴と、黒い着流しのものの2パターン。これはやっぱり黒でしょう。横顔のものと、それから雀右衛門と二人で写ってるもの2枚の番号を紙に書いて売店のおねえちゃんに渡す。次の幕間で支払い&受け取りなのである。京都とはちょっと違うのねん。京都だったらその場ですぐもらえるんだけどな。
反対側の階段のところでは、「関西歌舞伎を愛する会」がお店を開いていた。なんだなんだ。今までこんなのあったっけか?確か去年はなかったような・・・去年はでもこの会のおかげで松竹座の舞台に上がれた私、こりゃ何か買わなきゃだめだぞとばかり突進していく。生写真つきサインと、書籍、それから番附が売られていた。生写真つきサインは、仁左さま以外はあるそうだが、仁左さまのはとっくに売り切れらしい。・・・残念。吉でもあれば買うけれど、吉は今回出てないからない。書籍は、どれも食指動かず。番附は、以前からどうしても欲しい1冊がある。初めて歌舞伎見物をしたときの、番附。これがどうしても欲しいのである。あの時買えばよかったのだが、番附がこんなに面白いものとは知らず、買わなかったのが本当に悔やまれる。なのでこの段ボール3箱の中にあるかも!と思って探したのだがなかった。南座、歌舞伎座、松竹座、四国こんぴら、国立劇場、ルテアトル銀座などたくさんあったが、平成11年11月の国立劇場のものはなかった。本当に残念。結局何も買わなかった。座り込んで必死に探していたのに、がっくり戻る私を気の毒に思ったのか、そこのおっちゃんが話しかけてくれた。仁左さまのサインはどうやったら買えるのか!?と聞いたところ、初日では無理、舞台始まって10日くらいから売り出すから、その頃が狙い目とのこと。でも来年仁左さまが来るかどうかはわからないらしい・・・。来年、運が良ければ・・。

化粧を直して席に戻る。いよいよ仁左さまなのよ!

雀右衛門のお染と、仁左さまの半九郎。どこでどう聞いたのか、「半さま一人を夫とし・・・」云々という台詞を何故か覚えている。そうか、このハナシなのか、と番附を読んで一人納得。
雀右衛門が出てきた。あれまぁ、なんと可愛らしいこと。この人にしろ、富十郎にしろ、鴈治郎にしろ、あんた達いったい何歳なのさ、と不思議に思うばかりである。特に鴈治郎、あんたはまったく・・・うひゃひゃ。面白いなぁ。
仁左さま、酔っ払って足元覚束ない様子で入ってきた。ああああ仁左さま!!夢中で拍手する。お会いしとうございました。あああ仁左さま!もうもう、やっぱり生仁左さまはええわ。美しいわ。最近TVで「お命頂戴!」だの「絵島生島」だの見てるせいか、とても老けてみえるけれど、そら仕方ない、でもますます美しいと思うのだ。ああ手が長い、指が長い、手が大きい、背が高い、足が長い、すらっとしてる、肩幅広い、ああ綺麗、ああ美しい、ああ仁左さま!もう何もかも好き。目も好き、口元も好き、耳も好き、声も好き、やっぱり世界は仁左さま中心に回っている。
酔った仁左さまが横になる。ああ、肩の線のなんと綺麗なこと。足のなんと長いこと。扇子を広げ顔を隠す。あああなんて品のある仕草!周りを動き回る雀や、次に登場してきた菊五郎、秀太郎よりも顔を隠した仁左さまのほうが気になって仕方ない。扇子がはらりと落ちるのではないか、目をつぶった仁左さまの顔を拝めるのではないか、周りなんて見ていられない。
仁左さまが起きて宴は再開されたので安心して周りも見る。菊五郎、目がでっかいなぁ。秀太郎、なんか今回は色気あるなぁ。あの帯の模様、黒と濃い銀の市松、ほんによろしい。私もあんな帯締めてみたい。菊五郎、やけにこの役似合ってる。それにしても雀の可愛らしいこと。本当に可愛らしい。顔のでかさも気にならないくらい可愛らしい。確かこの人を観るのは初めてじゃないはずだが、今回、開眼。可愛らしい。
いろんな女形がいるけれど、可愛らしいと太鼓判を押したい人が3人いる。今まで観た、乏しい回数のうちからだけど、鴈治郎、富十郎、そして雀。一幕しか観たことはないが愛らしさ、あどけなさを一番感じたのは富十郎だろうか。みな結構なお年だけれど、いつまでも元気でいて、いつまでも私を楽しませてね。鴈治郎は当分、十分だいじょぶとは思うけどね、うきゃきゃきゃきゃ。
四条河原の斬り合いのシーンでは、仁左さまが大上段に振りかぶり、振り下ろす度に「お命、ちょうだい」と呟きそうになる。斬り合いのシーンでも仁左さまとってもステキ。私の頭の中では「奥祐筆、内藤左門」という台詞だの、あのTVのテーマなどが流れているが、仁左さまは身軽に飛び、その動きも美しい。殺陣の上手な人ではないが、でも美しいから許す。翫雀さん、あんたも相変わらずまんまるね。
それにしてもこの「鳥辺山心中」。おハナシはまったくもってけしからん、納得のいかんハナシである。なんじゃこれは。
ほんまにおバカな侍である。その人自身は全然美しくない。仁左さまがやるから美しいが。ほんまにアホな侍もいたもんである。粋ではないにしろ、言い過ぎたにしろ、兄じゃに意見しにきて呼び戻そうとした弟の立場は・・・。

30分の休憩。お弁当を食べて、写真を受け取りに売店にいく。おねえちゃんは私のことを覚えていてくれて声をかける前に写真を出してくれた。なんていい人なのかしら。仁左さまの生写真、どんどん増えていく。うきききき。
次の演目は菊五郎親子の「吉原雀」。以前、やっぱり菊五郎親子の「二人道成寺」を観て以来、菊五郎が贔屓の私、今回もまったく菊之助を観ることなく菊五郎だけを観てました。まぁちらと観た限りでは菊之助、以前より綺麗になった感じがせんでもないけれど、でも、まだまだ。 曲に合わせて踊っていると、私まで頭がゆらゆらと揺れてくる。なんか楽しいなぁ。私もこんなふうに踊れたら、もっと楽しいだろうなぁ。頭をゆらゆら揺らす私を見て菊五郎はヘンなヤツと思ったかもしれない。何度も、長い時間、視線があっていた。でもなんだか楽しくなったんだもーーん。菊五郎の踊りはなんか安心して観ていられるから、好き。二人道成寺の時のように手ぬぐいでも投げてくれるかと期待してまっていたが今回はなかった。ちっ。
更に休憩。
次はいよいよ、松緑である。

田之助、やたらと咳き込んでいる。だいじょぶか? 団十郎、菊之助、鴈治郎が出てくる。んまー、団十郎、バタ臭い暑苦しい顔。オペラグラスで覗いたらびっくりするほどまつげ長い。男のクセに、羨ましいったらありゃしない。菊五郎もそういえばまつげ長いのよね。あんたたちには不要でしょうに。きいっ。団十郎は顔の輪郭から目や鼻などのパーツがはみ出しそうな感じである、とおやびんに言ったらばおやびんにも同意していただいた。おやびんいわく「素顔はアホなロバ」には大笑い!
顔がどうのこうのと言ったからといって団十郎が嫌いとか、ヘタクソとか文句言ってるわけではないのである。団十郎も安心してみていられる役者さんであった。ヘタクソだと思ったのは今日の主役のはずの松緑である。なんだこいつは。
どうも私は必要以上にやたらアツく動く人が苦手のようである。右近然り、松緑然り、橋之助然り、染五郎然り。あーもう、うっとうしい!と思ってしまうのだ。若くても菊之助にはそんなところはない。孝太郎もそうじゃない。やっぱり若さとは別だわ。菊之助は物足りないし、孝太郎は美しくないからイマイチなのだが。お行儀良すぎて物足りないのよね、二人とも。
この幕の見せ所は大立ち回りだそうな。・・・そうか?これが?どこが?上海京劇を見ただけでなく2月におサルみてる私にはまったくもってそうは思えなかった。上海京劇は、ありゃ人間の集団じゃないから比べたらアカンが、おサルのほうが、今回のよりも数十段上である。立ち回りの若い衆も今回の倍以上元気よく飛んで跳ねて走っているし、おサルも松緑の十倍くらい、よく動いていたと思う。若いくせに松緑、たいして動かない上にこれが見せ場とは、アンタ、襲名はまだかなり、とっても、恐ろしく早すぎるんでないかい?などと不遜な考えを持ってしまった私だが、この幕のナンバーワンは、なんといっても重蔵を演じた子役だった。もうもう可愛くて上手で立派なのである!!見得を切ったり声張り上げて台詞言ったり、足をあげて走り回ったり、松緑なんぞよりもずうっと上手。団十郎よりも鴈治郎よりも、一番目立ったのはこの子だと思う。そういえば鴈治郎、恐ろしくおとなしかった。いつものように私に目玉比べ挑んでこなかったし、視線も殆ど動かさず、じーーーっとしてた。どんな役でもあっちみてこっちみて視線で遊んでたのに、扇さんによっぽどこっぴどく叱られてしょげてるのかい?と思ってしまうほど。それはないかもしれんがえらいおとなしかった。

帰り道、心斎橋で一人でお茶しながら、番附を隅から隅までゆっくり読んだ。このお店は大好き。コーヒーも美味しいし紅茶も美味しいし、器が何よりいい。磁器は極力自宅では使わない私だが、こんなところではこの薄い磁器がとてもよく似合うので大好き。それに同じ器だったことがない。いつもいつも違うものなのである。二階にあがる階段の幅がとても広いのも好き。階段も床もテーブルも椅子もしっかりした木で作られていて、テーブルには必ず生花。今回はフリージアだった。

ああ、贅沢な一日でした。
美也子たん、美也子たんのお母様、ありがとうございました。ほんに美しい仁左さまでございました。

さぁ、また歌舞伎、行くぞ!仁左さま待っててね!




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