夫は以前石丸さんちのHPでセーブルのセラちゃんを見て以来、黒い子が欲しい、黒い子が欲しいとうるさくなった。
当時我が家にはスーパーアイドルの、プリチーでキュートでクールな太郎ちゃん、それから不細工極まりないブタ、潔いお侍の長ちゃんという三兄弟がいて、私はとりあえずこれ以上増やすつもりはなかった。そんなある日、夫と日本橋に行き、偶然覗いた黒門の店に、ゴルがいた。買い物の前だったのでただ見ただけ、でも忘れられず、気になって、買い物の後うちの子にするべくお店に再度向かったのだった。
名前は最初見た時から決まっていた。歯医者さんに通ってる時待合室で読みまくったゴルゴ13。ごつい眉と鋭い視線、渋くて無口でクールな男、ゴルゴ13。なんてかっちょいいのかしらっ。そしてこの子も黒い。黒くてきっとクールな性格に違いない。闇をうごめくスナイパー。当然のように名前をゴルゴ13にした。私は男前がすきなので、男前に囲まれた逆ハーレムを作りたかったのだ。残念ながら夫は私の好みの顔ではないので最初からその夢は崩れていたわけだが、せめてハムだけでも、と思っていたのである。しかし考えてみたらばこの時既にもうブタがいたのよね・・・。
後でMLで黒門の店なら、ヨヨヨイヨヨヨイヨヨヨイヨイ、めでてぇなっ、の、伝七にしたら良かったのに、と言われた。その時はまだゴルゴの性格を十分把握してなかったので、ゴルのほうが似合うからそれでいいや、と思ったのだが私は甘かった。彼の性格からすれば、ゴルゴよりも男前じゃぁないが半七のほうがずっとずっと似合っていた・・・。
そう、彼は全然男前でもクールでも渋くもなかった。でれでれの甘えん坊で、人見知りする割には一度馴れた人にはべたべたのアマアマになるのだ。黒くつややかな毛は、じき茶色と茶色がかった灰色のまだらになり、こ汚い姿に成り果てた。本家ゴルゴ様ゴメンナサイである。
ブタや長ちゃんはその春行われたでぶりんず体重番付にノミネート。しかしゴルゴはまだまだ子供だったので体重も軽く、でもいつかこの子もでぶりんになってくれるものと信じていた。しかしゴルゴはいつまでも小さかった。ブタや長ちゃんは平均160g前後だったが、ゴルはいつまでも120g前後をウロウロしていた。この子は案外長生きできないのかもしれない。きゃしゃな骨格のゴルをだっこする度よく思ったものだった。
何故かブタに人気が集中する中、ゴルにも熱烈なファンが現れた。今も夫婦共々仲良くしていただいている箕面のT氏である。正直言って、可愛くないわけではないが、この子がよそ様からそんなふうに言われるとは全く思っていなかったので驚いた。しかしT氏のカメラを通して見たゴルの顔は本当に可愛かった。
ブタのファンクラブができようとも、ゴルのファンができようとも、私の中のナンバーワンは依然として太郎ちゃんだった。太郎ちゃんの次が、長ちゃん、そしてゴル、・・・最後がブタ。ゴルの地位はずっと低いほうだった。
次にキャンベルの菊五郎という弟が出来たが、彼の性格は変わらず、愛想もよく、甘えん坊で、体重も増えず、マイペースなままだった。
太郎ちゃんが逝き、長ちゃん、ブタが逝き、新しく来た弟達も先立って、ゴルゴはいつしか最年長のドンになっていた。手術を受け、タ○を取ったりEカラーを付けたりと色々あったが、彼は最長寿の記録保持者になりつつあった。軽かった体重も年を取るにつれて運動不足のせいかどんどん増え続け、晩年は280gという大記録を打ちたてた。体重の軽かった四男坊は、ついに体重でも長寿でも一番になったのだ。
そして食欲の殆ど衰えることのないまま、ある日、眠るように旅立った。飼い主が寝る前にゴルを見た時、後ろ足を投げ出していたので驚いてだっこすると彼の体はつめたくなりかけていた。しかし目は開いていて、反応もある。既に巨体となったゴルの体は飼い主の掌からははみ出してしまうが、それでも慌てて暖めて、呼びかけるとゴルは口を動かしたり手足を動かしたりしたが、しばらくすると、すっと目を閉じ、それはそのまま開かれることはなかった。
ゴルは今、どうしているだろう。今もあっちで回し車を外から回しているんだろうか?コサックダンスの名手として頑張っているだろうか?
今日、10月8日は太郎ちゃんの命日である。そしてもう10日もすればゴルの命日が来る。彼らの誕生日よりも、彼らを迎えた日よりも、私の手元から旅立った日のほうが私には重たい思い出である。
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